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オリジナル短編小説~#4「紅に染む日」-わたしの色-~

紅(あか)に染む日

#4.わたしの色

何かの本でこんなことが書いてあるのを見た。

「人生は自分で決めるもの。嫌なら逃げれば良い。これからの人生はあなた次第です。」

この手の本には大体同じようなことが書いてある。

自分でも分かっていながら、きっといつか自分にとっての最適解が見つかるんじゃないかと思って読んでしまうが、いつも途中までしか読めない。

読んでいくうちに、「これが出来ればこんな苦労はない」と思ってしまうからだ。

結局は、どれもその本の著者の成功体験にしかすぎない。誰がどう言おうと私には関係ないのだ。

 

少し前までは緑と黄の入り混じった外の風景も、いよいよ秋本番といった感じで赤く染まりつつあった。

愛子と会って以来、ベッドに入ると愛子に言われた言葉たちが美奈の頭の中で幾度となく繰り返されるようになっていた。

「自分のやりたいことも目指したいものも分かんないままで本当にいいのかな」

この時、答えが見出せない美奈の中で、無意識のうちに一つの答えが導き出されようとしていた。

 

普段外出しない美奈であったが、今日に限っては外出しようと決めていた。何故そうしようと思ったかは本人にも分かってはいなかったが、心からそうしたいと思ったのだ。

普段歩かない道を歩くと、普段見たことがなかった景色と出会う。もちろんこれは当たり前のことではあるのだが、仕事で忙しい日々を過ごす美奈にとっては、どこも新鮮で、どの景色も胸を高鳴らせるようなものに見えた。

「もうこんな時期か。意外と気付かなかったな」

その並木道の木々はどれも美しく赤に染められており、優しく美奈を包み込むように風に揺れていた。時折、ひらひらと舞う紅葉がより一層その視界に映る景色に動きをつけて彩っていた。

「きれい。。」

心からそう思った。今まで感じていた不安や雑念がスッと頭から消えていくのが自分自身でもわかった。

もう少しこの感じを味わっていたい。この感覚は美奈にとって初めての経験だったのだ。

「な~んだ。こーゆ―ことだったのね。ふふ」

 

どのくらい時間が過ぎただろうか。明るかった空もだんだんと薄暗くなってきていた。

「そろそろ帰らなきゃ。」

人通りの少なくなった道端では、二匹の猫がひらひらと落ちる紅葉を必死に追いかけて遊んでいた。

 

「課長、お話があります。来月限りで退職させて頂きます。」

「急にどうした?何かあったのか?」

「いえ、何があるというわけではありませんが、」

「じゃあ、別に何かやりたいことが出来たのか?まだ入って2年目だろう。もし無理していたのなら、俺が何とかしてみるから、考え直してみてくれないか?」

「もう自分の中で整理はついています。この先、自分の決断が変わることはもうないと思います。自分が、これからどうしていくべきか、何を目指していくべきなのかを考える時間が私には必要だとわかったんです。なので、お願いします!辞めさせてください!」

美奈はこの日、自分の人生における大きな分岐点となる選択をした。

 

数日が過ぎ、自分のデスク周りの片付けも終え、いよいよ今日が美奈にとって最後の出勤日だ。同僚・先輩・後輩・上司すべてにあいさつ回りを終えると、1年半ではあったが、様々な苦労をした事務所に一礼し、会社の外に出た。

先ほどまで勤めていた会社を辞めてから見る自社ビルは、今となっては何か得体のしれない大きな虚像のように見えた。改めて美奈はビルに向かって一礼をした。

「今まで本当にありがとうございました」

そう一言つぶやくとすぐにある場所へと向かった。

そう、前に美奈が見つけた赤く染まる並木道だ。

この場所で美奈はこれからの自分の人生を決める決断をしたのだ。

2年前の卒業旅行の車の中、そして社会人になって愛子と会った時。

美奈の中でずっと答えが出せていなかった「自分にとって働く意味」の問いに対して、この場所でようやく1つの答えにたどり着くことが出来たのだ。

ヒラヒラと落ちる赤い葉を見つめながら、あの時愛子に言われた言葉を思い出す。

「もっと広く見てみなよ。この世界には数えきれないほどの仕事があるんだよ。自分から選択肢を狭めなくたっていいのよ。もっと広い世界を見て、そこから自分が目指したいものを見つけたらいいじゃん」

あの時、美奈はこの場所に来て気づいたのだ。美奈は普段通ることがなかったこの場所をたまたま訪れたことが、実は自分にとって必然的な運命ではないのかと。

あの時、この場所を、新しい世界を発見した美奈は今まで感じたことがなかった感覚を経験した。それはまさに、おのずと自分から選択肢を広げたことによるものだったからなのだと。

「別に今すぐやりたいことなんて見つからなくてもいいのよ。これからゆっくり見つけていけばいい。私なりの生き方はこれから探していくの。この場所がそれを教えてくれたの。私の見ている世界は実はちっぽけな世界で、まだまだこの世界にはたくさんの選択肢で溢れているんだって。私は私。」

「ここが、これがわたしの色。」

そうつぶやく美奈を2匹の猫は不思議そうに並んで見上げていた。

最後に

”自分は今までどんな世界で生きてきたのだろうか。どんな生き方をしてきたのだろうか。”

”これから人生をどう歩んでいくのか”

過去の生き方と未来の生き方」はつながっているようで実はつながっていないのかもしれません。そして、自分の見ている世界が正しいのかもしれませんし、そうでないのかもしれません。

ただ一つ、自分が選んで進む道」に間違いはないと思っています。

 

4話に分けてオリジナルの短編小説を始めて書いてみましたが、個人的に楽しかったなという感覚です。

イラストも自分で描いたものなのですが、イラストを見て思いついた話を書いたものが今回の「紅に染む日」なんです。

終わり方の感じだけなんとなくイメージして、後はキーボードをたたきながら即興で書き進めていったものになるので、正直話の展開がどうなるのか書いている私も実は楽しみにしながら書いていました。笑

今回を機に、また何か思いついたら新しい話を書いていきたいなと思っている次第です。

では、また👋

ABOUT ME
ヒロ
社会人4年目/25歳/食品商社で2年間営業した後、IT業界にシステムエンジニアとして転職/Java,PHP言語を扱う開発エンジニア